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コウノです。

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ここからです。

 

『英雄物語 mission:ドラゴンから農場を救え!』

 

それは、ゆっくりと流れる午後の出来事だった。

彼――――甲野 大智は、自身の生活圏から少々離れた小さな農村へと足を運んでいた。投資を持ち掛けてきた、とある農場を視察するためである。

「………………」

農場のあちこちに、人の仕業とは到底思えない力で荒らされた形跡があることに、大智はすぐに気付いていた。隣に立つ農場長は、心労ゆえかすっかり後退してしまった額から流れる汗を拭うばかりで、一向にその件には触れようとはしない。仕方なく、大智が説明を求めて口を開こうとした、その時だった。

突然、鼓膜を突き破るような轟音が響き渡った。いや、音ではない。甲高く割れたそれは、彼にも聞き覚えのある、特有の威嚇の声。

「ああ、また……!」

空を見上げた大智の耳に、絶望のにじんだ農場長の呟きが重なった。

「……成程。資金が必要な理由は、これですね」

逆光の中で上空を旋回するひとつの大きな影を睨みつけたまま、大智が静かに言った。

獲物に狙いをつけるように村の周囲を回っているのは、巨大なドラゴンだ。この農場は、恐らくあれの襲撃を受けたのだろう。農場長の口ぶりからしても、一度や二度ではないはずだ。

大智は胸ポケットから取り出したものを、そのまま隣に押し付けた。

「あなたはそれをお願いします」

「は……? これは……ほ、本……?」

「まだ途中なので」

文庫本を手にぽかんとこちらを見つめる農場長にそれだけ言い置いて、大智が駆け出した。

表に出てきた住人たちがにわかに騒ぎ始めるのを横目に認めながら、瞬時に手の中に宿した光の熱をドラゴンに向けて放った。二発、三発――――固い皮膚を、焦がす。

敵が大きく翼を羽ばたかせた。空中で身を翻し、途端にその巨体が空を切って大智へと向かう。鋭い歯が、襲い掛かった。

しかし大智はすんでのところで土を蹴って飛び退いた。その足が、ふわりと浮かぶ。

「罰ゲームは怖くないか!」

目の前を横切っていく双翼の竜と目が合った一瞬に、大智は口角を引き上げた。

そう、これは罰だ。罪無き人々を苦悩の底へ叩き落した、この無法者への聖なる罰。

「知力、体力、時の運……!」

合わせた手のひらの中に、ふたたび光が生まれた。陽の光をも飲み込んでしまうほどに、強い光。それが徐々に大きくなってゆく。

ドラゴンがふたたび大智へと向かった。ぱかりと開いた口から爆炎が放たれる。

「アルティメットバースト!!」

まばゆい閃光が、真正面から炎とぶつかった。彼らを軸に、一陣の風が吹きあがる。徐々に炎を押していくそれは、とうとう敵の口元にまで押し迫り、そして――――ドラゴンの巨体を、貫いた。

 

地に降り立った大智を迎えたのは、村人たちの歓声である。中でも農場長は、いの一番に大智に駆け寄り頭を下げた。

「ありがとうございます、本当にありがとうございます! なんとお礼を申し上げていいか……」

「この農場に投資します。それから別途、修理費用もお渡ししますので」

文庫本を受け取るや、大智は要件だけを静かに伝えた。

元来彼は、初めて会った人と両手を上げて喜ぶタイプではない。そして激励は、陳腐な言葉などではなく、行動で示すのが彼流なのである。

「あ、ありがとうございます!」

深く頭を下げる農場長に挨拶程度の会釈を返した大智は、静かにその村を離れた。

それから数日後、彼の元に届いた礼状には、村人たちの感謝の意がこれでもかというほどしたためられていたのだとか。

 

 


読んでいただいてありがとうございました
それでは引き続き頑張っていきましょう。

ではまた

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